2019年5月8日水曜日

「デジタルデトックス」のビジネスチャンス (Digital Detox)


デジタルデトックスとは?

最近、「デジタルデトックス」という概念が注目されている。これは、端的に言えば、一定期間、デジタル機器から距離を置くことで、「デジタル機器の利用から生じる弊害をデトックス(解毒)する」という意味である。数年前から欧米で注目されてきたが、最近、日本にもこの概念が普及しつつある。


スマホの弊害

スマートフォン(以下、スマホ)は、すっかり我々の生活に定着し、なくてはならないものとなりつつある。しかし、一方で、スマホに過度に依存する「スマホ依存症」も社会問題化している。

過度のスマホ依存に陥ると、うつや不安、集中力の欠如、無気力、不眠、情緒不安定、学力低下などの症状が現れやすい。スマホ依存症が重篤化すると、脳が強いダメージを受けて認知症に近い症状を引き起こす可能性があるとの研究もある。

また、東北大学の川島隆太教授の研究では、家で2時間以上勉強しても、携帯やスマホを3時間以上触っていると、学校以外でほとんど勉強せず携帯やスマホを使わない子どもよりも成績が悪くなるという結果が出ている(プレジデントオンライン、2018.3.29)。




デジタルデトックスを提供するビジネス


最近、デジタルデトックスを目的としたサービスも提供されるようになった。
例えば、星野リゾートは、軽井沢や富士山などで、各施設の特性や地域性を活かした「脱デジタル滞在」メニューを提供している。チェックイン時にデジタル機器をホテル側に預け、滞在中は利用しない。温泉宿やグランピング施設などでもデジタルデトックスを目的としたメニューが提供されるようになっている。

2018年12月に「イモトのWifi(エクスコムグローバル株式会社)」が2日間限定で行った『つながらないレストラン』も話題になった。来店してスマホ等のデジタル機器の電源を切らないと料理が提供されないしくみで、20組限定のところ340組の応募があった 。




デジタルデトックスビジネスの今後


デジタル機器は非常に便利なツールであり、いまや現代人の生活に不可欠なものとなっているが、過度の依存は心身に弊害をもたらし、日常生活にも支障をきたすことになる。スマホチェック等が習慣化している人が非常に多い中、こうした半強制的にデジタル機器から離れるためのサービスは、社会的なニーズが高く、爆発的なブームとまではいかなくとも、今後とも着実に成長していくものとみられる。



2019年3月7日木曜日

「ナッジ理論」の応用可能性 Nudge Theory

「ナッジ理論」の応用可能性


ナッジとは?


「ナッジ理論」が、マーケティングで注目されるようになった。

「ナッジ(nudge)」とは、英語で「肘でそっとつつく」「そっとけしかける」といった意味で、行動経済学では軽い刺激を与えて利用者や顧客などを適切な(望ましい)選択に導く理論を指す。

ナッジ理論は、シカゴ大学のリチャード・セイラ―教授とハーバード大学のキャス・サンスティーン教授が提唱した。2017年にセイラ―教授のノーベル経済賞受賞を機に米国を中心に世界的な広がりを見せ、最近では、世界的に広まりつつある。


ナッジの事例


ナッジ理論を応用した事例は、ごく身近にある。例えば、コンビニエンスストアやスーパーなどで、レジから少し離れたところに足跡のかたちを描いておくと、レジ待ちの客がその位置に立つようになる。





レストランのメニューで「店長おすすめ」などと書かれていると、そのメニューが選択されやすくなる。


















また、アマゾンなどのウェブサービスで、入会月は無料で解約しない限り継続(次月より課金)とする企業が多いのもナッジの応用である。「解約しない限り継続」という、企業側が希望する消費者行動をデフォルト(初期設定)にしておくことで、継続する人が増える傾向がある。


ナッジの応用可能性


ナッジ理論は、欧米では公共政策にも応用されている。例えば米国ではオバマ大統領が公共政策にナッジを導入することを求めた大統領令を発令し、ナッジを活用する組織を設置した。

環境分野では、電力消費量の多い家庭に対して「近所のご家庭より電力消費量が多いです」というメッセージを送ったところ、消費量の減少がみられた。

日本でも、2017年から環境省が、ナッジ理論を応用した省エネ活動に着手している(http://www.env.go.jp/press/104736.html)。


今後、ナッジ理論はマーケティング等のビジネス分野だけではなく、社会の幅広い分野で、最適化や効率化を促すための有効なツールとして応用されるようになるだろう。

2018年10月2日火曜日

普及が期待されるスマート医療


近年、高齢化が進む中、さらなる医療の充実化が求められている。また政府は、従来、病院完結型であった医療体制を地域完結型へと移行する方針を掲げている。そうした中注目されているのが、「スマート医療」である。スマート医療とは、ITを駆使して診療や治療、手術等を行う医療体制である。





名古屋大学医学部付属病院は、シスコシステムズとともに「スマートホスピタル構想」に向けた医療IoTの実証実験を進めている。例えば、自宅や介護施設等の患者にウェアラブルデバイスを装着し、バイタルサインや運動量などのデータをリアルタイムに取得、それに基づき患者への生活指導を行う(日経新聞、2018年2月13日)。



AMED(日本医療研究開発機構)は、2018年7月、信州大学でIoTを活用した「スマート治療室」の臨床研究を開始すると発表した。手術室内の各種の医療機器をネットワークに接続し、ミドルウェア*を通じてデータ連携を可能にする。またこれにより、手術の途中で手術室の外にいる医師からアドバイスを受けることも可能となる(日経新聞、2018年7月10日)。

日本の少子高齢化傾向は今後も変わらず、2025年には全人口の約2割が後期高齢者になる時代を迎える。高まる医療需要と相対的な医師不足に対応する有効手段として、スマート医療の急速な普及が期待されている。

*ミドルウェア:アプリケーションとOS(オペレーティングシステム)の中間的な処理を担うソフトウェア。

2018年8月5日日曜日

米中貿易摩擦と日本が果たすべき役割

激化する米中貿易摩擦


最近、米中貿易摩擦が激しさを増している。

トランプ米大統領が、中国の知的財産権侵害を問題視して「中国からの輸入品500億ドル相当に25%の関税を課す」と発表し、それに中国が同等の関税で対応したことをきっかけとして、その後も関税による報復合戦がヒートアップしているのである。



日本への影響


両国の対立は、日本にとっても決して対岸の火事ではない。米国と中国は、世界第1位と第2位の経済超大国であり、両国とも日本にとって極めて重要な貿易相手国でもある。

まず、米中両国が関税の引上げによる報復合戦を繰り広げることで、両国の貿易に大きな支障が出て、世界経済にも甚大な影響を及ぼす懸念がある。特に中国ではインフレリスクが高まり、大不況に陥る可能性も指摘されている。

また、中国に部品等を輸出している日本企業も多いので、米中の関係が悪化すれば、当然、日本にも類火が及ぶことは免れない。


今後、日本が行うべきこと


こうした自国中心主義や保護主義に基づく、勝者無き貿易戦争の愚を蔓延させないために、今後、日本が行うべきは、RCEP(東アジア地域包括的連携協定)やCPTPP(全面的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ協定)においてリーダーシップをとり、米中以外の国々での団結を図ることによって、グローバル社会における自由貿易の旗手となることである。

2018年8月2日木曜日

CSR(企業の社会的責任)の進化形、SDGsとは

SDGsとは何か

2015年9月、国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された。

SDGsは、先進国を含むすべての国により良き将来を実現するために目指すべきことを17の目標(貧困の撲滅、万人への質の高い教育、水・衛生の利用可能性、気候変動への対応など)にまとめたものである。


SDGs導入例

このSDGsをCSR(企業の社会的責任)戦略に組み込む企業が徐々に増えている。

例えば味の素は、ガーナで乳幼児が栄養不足になり死亡することが多いという課題に対し、栄養価の高い離乳食用サプリメントを、ガーナ大学と共同で開発している。

また洗剤・石鹸等を製造するサラヤ(大阪市)は、「100万人の手洗いプロジェクト」と称して、ウガンダで下痢性疾患等の予防に向けた手洗いの習慣の普及を進めている。


吉本興業は、「2030年を笑顔であふれる世界に!」というスローガンのもと、国連とのコラボ企画として、SDGsについて芸人らが語るPR動画を公開したり、吉本興業が主催する映画祭への来場者を対象に国連広報センター長がSDGsの紹介を進めている。

マンダムや武田薬品なども、SDGsの関連付けながら自社のCSR活動を策定・推進している。

東京大学は、2017年7月に総長(学長)を中心に「未来社会協創推進本部」を設置し、産業界との連携においてSDGsを活用することを目標に掲げている。

金沢工業大学が日本企業によるSDGsビジネスの先行事例を選出する「SDGsビジネスアワード(2017年3月)」を開催するなど、産学連携に向けた動きもみられる。


SDGsはコトラーの「マーケティング3.0」に通底

SDGsは、マーケティングの泰斗として知られるフィリップ・コトラーが提唱した「マーケティング3.0」やCSV(共有価値創造)経営と通底するものがある。

開発途上国を対象とした取り組みは、かねてからみられたが、今後は、先進国も含め、SDGsの視点を盛り込んだ課題解決型ビジネス(SDGsビジネス)として普及することが考えられる。



参考資料:

マンダム:https://www.mandom.co.jp/csr/src/connectionto-sdgs.html

武田薬品:http://www.takeda.co.jp/csr/files/svr2017_jp_BasicPolicyonCSR.pdf